だからってその鍵を持っていかなくてもいいじゃないか。


古めかしすぎて今の世の中
どうやってもその鍵に会う鍵穴はないはずの鍵を
後生大事に持っていた。
それが宝ものだと一目見たときから思っていた。
鎖を通して首にかけると
周りは貴方の心の鍵かしらと冷やかす。
そうだったらどれだけよいのだろう。
自分の心なんて他人の心と同じで良くわからないものだ。
乖離したようなふわふわとしたときに
鍵をかちゃりとあけて
それを取り出して握りつぶしてしまえたら。



君はその鍵を選んだ。
僕の代わりにそれを持っていくんだって。
ずっとこれからも大事にするから、貴方を思い出すから。


鍵は長い年月生き残っていた。
全体を空気に覆われ続けてきたから淡く錆びていたけれど
残っていられたのは、君がずっと孤独だったから?

彼女はふざけて僕の胸の鍵を閉めるしぐさをした。
実際に鍵を閉めて後生大事にしまっておけたらいいのに
風化してしまうことが予想できる自分が冷たく思えて
それを軽蔑しているもう一人の自分を感じる。


もう二度とあかなくなってしまった扉。
鍵は孤独じゃなくなったから。
もう、錆びていくしかない。
僕も、朽ちていくしかない。