no title


古びた鍵を鍵穴に差し込もうとしてみる。
あかない確率のがずっと高い、が、それは関係なく
私が所有している鍵穴に私の所有している鍵を差し込もうと
試みただけの話だ。


私の持つ鍵は細長い棒状の金属の先に、正方形の一部が切り取られた形の
RPGのゲームで宝箱をあけるために出てきそうな、”所謂”鍵である。
もし私が主人公で針金を持っていたのなら、ピッキングで簡単に
宝箱を開けて、わざわざ鍵を隠すために色々手間をかけたプログラマー
苦労をぶち壊しにするだろう。
それぐらいシンプルな鍵である。


私たちが普段使っている鍵は細長く、幾重にもぎざぎざがついている。
鍵は何処に凹凸が付くかで鍵としての役割を果たしていて
鍵としての役割を果たすために、それを作ろうとしたら
恐らく膨大な数の組み合わせが考えられるだろう。
しかし私の鍵はそのような用をなさない。
作ろうと思えば大体の形をつくった鋳型に鉛でも流し込めば
作れるだろう程度の、安易な鍵である。
複製手順が容易であるそれを、おそらく鍵とは言わない。


鍵穴に当ててみる。穴は私の鍵には細すぎる。
そして溝もない。
何でこんなに複雑になってしまったのだろう、と思う。
こんなに綺麗な形で、こんなにわかりやすい形をしていたのに
複雑になり、醜くなり、かといってセキュリティが高くなったかというと
結局これらも針金一本であいてしまう稚拙さのままだ。


私は穴の中に鍵を通すことを諦め、持っていたもう一つの鍵を差し込んだ。