とある文学的試み


いつも止まっている蛾が居た
小さな子供の手の大きさほどもある、大きな金色の蛾で、
銀色の斑点がそれぞれ
羽に二つずつ

その身まで黄色を纏うその大きな蛾を見たとき
あまりの気持ち悪さに避けて通った
毎日毎日その蛾は同じ場所でじっとしている



この蛾、ずっと此処に居るのよ、といった
彼は、本当に生きてるんだろうか、といった


毎日毎日、その蛾は少しだけ移動して
なのに相変わらずそこに居る




秋が冬へと豹変した


今日も私はその蛾を見る
相変わらずそこに彼は居る
私は最近彼を近くでそっと見れるようになった
彼は誰も傷つけない

静かに静かに、そこでいつもじっとしている


ある日の夜、彼は壁につかまる力を失って落ちた
近寄ってみても、ちっとも動かない


私は心配になりながら、触れるのがまだ怖くて、その場をそっと離れた


まだ彼はあそこにいるだろうか。
誰かに踏みつけられていないだろうか。
私は彼のかさかさに乾いた翅が
くしゃっと乾いた音を立てて散るさまを連想した。





日に日に弱っていく。



徐々に翅は湿気に蝕まれていく
鍵で触れてみると
翅を高く上げて私を威嚇した


声を持たない彼はただじっと
翅についた眼で私をにらみつけるだけ



音も立てず 何も残さず
彼が消えたと同時に、寒い冬がやってきた。
その僅かな邂逅の間に
残像だけが残る。