生物物理化学10-31日分

■講義内容について
 生命体を構成する物質は無限にあるが、それを構成している原子は100程度になる。物質の多様性は、その原子が分子として組み合わされることで生じる。有機物だけでもその可能性は無限に近い。さらにその分子がつながりあって巨大化した物が高分子である。高分子は組み合わせとそれが持つ性質の多様性により、様々な情報を有している、ともいえる。
 高分子という概念が見出されたのは最近のことであり、1926年にドイツのシュタウディンガー(Hermann Staudinger,1881〜1965)がセルロースの研究を行っていたときに初めて提唱された。当時主流であった、ポリマーは低分子集合体である(コロイド溶液である)という学説に抗して、「分子そのものが巨大である」とする巨大分子説を唱えた。当時、それは大きな抵抗にあったが根気よく自説の正しさを実証し続け、1953年にノーベル化学賞を受賞するに至った。
 現在、高分子化合物はその性質に合う用途で、様々な分野において用いられている。昔から用いられてきた天然高分子化合物と人工的に作られた合成高分子化合物があり、私たちの分野において重要となっているDNAやタンパク質なども代表的な高分子である。また繊維や容器として、合成高分子も非常に身近なものとして使われている。
 高分子の性質と用途については大きな関係性があり、一つの例としてゴムがあげられる。ゴムの特徴は伸びること、絶縁性(Insulator)、反応性と修飾性(←二重結合をたくさん持つため)である。ゴムが伸びるのは、ゴムの主成分となっているポリイソプレンによるネットワークが、縮んだ状態から形状を変えることができるためである。
 合成高分子において最も一般的な用途と言えば、繊維である。ナイロンはデュポン社(Dupont)が開発した高分子化合物であり、当時「水と空気と石炭から作られ、蜘蛛の糸よりも補足、鋼鉄よりも丈夫な夢の繊維」とうたわれて爆発的な人気を誇った。現在でもストッキングなどに良く用いられている。「これによって絹が主流だったストッキングは、ナイロンに取ってかわられた。日本の主要な外貨入手手段だった絹産業が衰退することになった。一つの高分子の発明が社会に大きな影響を与えることがある。」と仰っていた。
 ナイロンは動物性タンパク質の構造をまねて作られたポリアミド系の繊維である。高分子化合物は分子間の結合の形態により属性が大きく変化する。(分子間相互作用)
東洋紡が開発したザイロン(Zylon)は右のような繰り返し単位を持つ繊維である。ベンゼン環を含めた環状構造が繰り返し単位になっている非常に強固な繊維であり、燃えにくいため、防火服などに使われている。
実際に先生が持ってきてくださり、触ることが出来た。少し黄色がかった光沢を持った、非常に細い繊維だった。

 私たちの学科で重要である生体高分子化合物の代表的なものとして、多糖類、ポリペプチド、DNAがあげられるが、これもそれぞれの特性にそった用途で用いられていることが分かる。
●多糖類:エネルギーを多く有するためエネルギー源となり、またその安定性によりセルロースのような強度を持つため生体構成成分として使われる。またその反応性により膜糖類などのような物質の修飾にも使われる。
ポリペプチド:構成単位であるアミノ酸の配列により立体構造に多様性を持ち、生体構成成分だけでなく酵素としても働いている。それ自体が様々な化学反応の場となる。
●DNA:塩基配列と物質自体の安定性により、遺伝情報の保持担体として使われる。
「高分子の大きな特徴は、情報を持つことが出来るということである。これは低分子にはできない。」

 様々な用途を持つ高分子であるが、その測定方法はどうなっているだろうか。分子量測定について代表的なものを上げてみる。
●沸点上昇、凝固点降下度:ある溶媒にある物質を溶かしたとき、その沸点、あるいは凝固点の変化量が溶けている物質のモル濃度に比例する。
●密度:一定体積あたりのその物質の質量により、分子量を計算する。
電気泳動:担体(ゲル、高分子の溶質など)の中で電位をかけ、その物質の電位によって物質をゲル内で移動させる。このとき対象物質の分子量が大きいほど移動しにくくなるという分子ふるい効果が働く。この性質を用いて特に生体高分子の分離に使われる。
●粘度:ある物質を液体にしたときの粘り具合のこと。粘度は細い管の中を自重で移動する速度で比較でき、分子固有の粘度がある。
クロマトグラフィー:多孔質ビーズの中に、溶媒に溶かした物質を通過させる。ビーズによって分けられる物質の分子量が決まっており、そのビーズの選別できる分子量を目安にして混合されている物質同士をわけたり、流れてくる速度によりその物質の分子量を調べたりすることができる。
 ただし低分子の測定法では高分子の分子量測定に通用しない点がある。それは分子一つ一つの分子量が大きいことによる。1gあたりのmol数が少なくなるために、沸点上昇や凝固点降下度などのような、ある程度のmol数が確保できないと差が明確にならないような測定方法は用いることが出来ない。もしそれを行おうとするなら膨大な量の溶液が必要になる。このようにモルに基づく性質(Colligative property)といい、この性質に基づいて物性を調べることは高分子には不向きである。
また粘度は物質それぞれの同定にはむいているが、一つ一つ固有の粘度を調べる必要があるため、手間はかかる。
まとめ
高分子は繋がることで、①情報を持つ、②様々な機能を持つ、③化学反応の場を提供する、④力学的強度を持つ。

■課題について
課題1「身の回りの高分子化合物を10個上げ、その特徴と使用されている理由を書け。」
略。

課題2「ゴムは引っ張ると熱を持つか、冷たくなるか。その理由と共に書け。」
 まずゴムの弾性について考える。ゴムはイソプレン骨格をもち、C=C結合の部分は回転が出来ないので固定されているが、C-C結合は回転が出来るため分子鎖は色々な形を取ることができる。このような分子鎖の内部での部分的な熱運動をミクロブラウン運動といい、ゴムの伸び縮みはC-C結合の自由回転によって行われる。またC=C結合は分子内に多くの隙間を作り、ミクロブラウン運動を可能にする。
 天然ゴムでは常温でもミクロブラウン運動が盛んに行われているため、様々な分子の形を取ることができるが、丸まった形をとることが圧倒的に多く、もし外力を加えて引き伸ばした状態にしても、外力を与えることをやめると分子鎖のミクロブラウン運動によってまた丸まった形に戻っていこうとする。これがゴムの弾性の原因である。
もし外力を与えると、ゴムの分子鎖はミクロブラウン運動を行いにくい固体に近い状態になるため、ゴムの持っているエネルギーは元の状態よりも減少する。このためゴムを引き伸ばすと発熱反応が起こり、温かくなる。また分子の配列は規則正しくなるため、エントロピーは減少する。このエントロピーを増大しようとするために元の形に戻る。(エントロピー弾性)

課題3「高分子の分子測定について」
①分子排斥クロマトグラフィ
 分子サイズのふるいわけを原理として分子量を測定する方法。ある一定の大きさの穴を持つ多孔質ビーズを用意しカラム管に詰め、試料を流しいれる。その穴に入れる程度の大きさの分子は分散侵入することができるが、それよりも大きい分子は入ることが出来ず、穴に入ることなく流れ出てくる。この性質を利用してその物質がカラム内にとどまる保持時間から分子量を推定する。
②遠心分離の沈降速度
 遠心分離を行ったとき、その分離の回転数に従い分けられる物質の分子量が決まっている。早く沈降するものほど大きい分子であり、ある回転数に対して沈降するかしないかで分子量の同定を行うことができる。
③粘性率
 粘度と同じ。一定温度においてある物質が流動性を持つとき、自重で細い管の中を移動する速度でその物質を同定する。粘度は物質によって一定であり、その物質によってきまる。
 ノーベル賞を受賞した田中耕一氏発案のMARDI-TOFMSやMASS法など、分析機器も発達している。
なお高分子の分子量は平均分子量であらわされる。

■調査(物質の透明性について)
 物質が透明に見えるのは、私たちの眼が認識できる可視光線がある物質にあたったときに、反射や吸収が起こらず通過してしまうからである。ある物質に光を当てたときに可視光領域で反射や吸収が起こらないような物質を作れば、透明な物質を作ることが出来る。
 透明な金属を作るためには、まず金属の色や光沢の原因となる自由電子について考える必要がある。自由電子が光のエネルギーを吸収して共鳴振動を起こし、そのエネルギーを放出するときに光の反射が起こるが、このような反射、吸収が起こらない程度に電子密度を低くすることができれば透明な金属を作ることが出来る。
 金属原子のもつプラズマ振動数に対し波長が短い光が当たると透過が起こる。紫外線においては“透明な”金属がいくつか存在するが、可視光領域では同様のことが起こらない。

■感想
実際に先生が持ってきてくれたので触らせてくれる、ということになって事前に一言。「切ろうとしないでね。」クラス中が少し浮かれた雰囲気になったが、さらに一言。「本気でやると指が切れます。」とても丈夫な繊維である、ということが実感できました。実は友人が、細く細く一本だけ取り出して指で切った後に「勝った・・・!」とはしゃいでいました。(先生すいませんでした。)
今回の調べものは物理色の強いものが多かったですが、やっていて物理に強い興味を覚えました。今のうちに手をつけておきたいです。(高校時代にやっていません)もっと見通しが良くなるんだろうなと思います。
 透明性については、わかりそうでよくわかりませんでした。

■参考文献
・ザイロン
http://www.toyobo.co.jp/seihin/kc/pbo/menu/fra_menu.htm
・合成繊維
http://homepage2.nifty.com/organic-chemistry/seni.htm
wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/
・化学Ⅰ・Ⅱの新研究/三省堂/卜部 吉庸著
・透明性について
http://www.coguchi.com/yougo_s/plastic_yougo/ta-re.html
http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a.html
http://www.chemenv.titech.ac.jp/watanabe/Pages/plasma-nanoparticle.html