10-24レポート


■講義内容について
生命とは何か。この問いについて、生物学的にいくつかの定義があるが、今回の講義では「自己複製について」を重点的に話されていた。自己複製するということは、分子レベルでの情報伝達が行われていると言うことである。また、生物の存在そのものが物理化学の第二法則、エントロピー増大側に反することである。先生は「高分子化合物が高いクオリティーを持つ、ということを感覚的に理解してほしい」と力説されていた。高分子化合物や分子集合体はミクロレベルで不均一な構造をとる。つまりミクロレベルでエントロピー増大則に反しているのであり、それの集合によって作られた生物もまた、エントロピー増大則に反しているのである。
 その生命がどう発生し、進化したか、つまり生物の起源についてだが、ミラーの実験により原始の地球を模した環境(放電、加熱、原始の海を模した水など)におくと、原始大気中の分子同士が反応して高分子化合物が生成することが確かめられている。またそれらは原始の海で冷やされ、さらに集まりあい結合しあいながら徐々に大きなものとなっていく。(高校の生物参考書などで調べてみたところ、当時ミラーが考えていた原始大気の組成と、現在考えられている組成とは少し異なるらしい。ただしどちらの組成でも同様に生態高分子化合物は生成するとのこと。)現在確かめられているのはDNAやRNAたんぱく質などの化合物が集まって集合体を作るところまでであり、(実際はリン脂質が二重膜を作ってその中にDNAやたんぱく質が取りこまれ、分裂のようなことを繰り返すところまでは確認されている)それ以降の進化による経緯はまだわかっていない。しかし、DNAの重要な構成要素である塩基には、ミラーが考えていた原始大気の一部であるシアン化水素に似た構造がいくつも見られるため、これが化学進化説の裏づけとなる証拠の一つとミラーは考えていたようだ。
 遺伝子であるDNAは自己複製するときに自己の配列と同じものを作ろうとするが、そのときに起こる誤読が進化に繋がると考えられている。ウイルスなどの低次な生物はこの誤読がしばしば起こるため、様々な変異体が出来る。一方、哺乳類のような受精によって繁殖する生物では親に個体によるヘテロ遺伝子の組み合わせによっても遺伝子の多様性が生じる。
 進化論に関しては、宗教による弊害もあると仰っていた。「日本ではあまりそういうことはないが(実際私もそういうことはないが)、キリスト教にとって人間は神が創りたもうたものであり、人間やもろもろの生物が最初からあったということになっていて、しかも信者の人は本気でそれを信じている。信者が多いアメリカなどではそれによって議論が進まない。」
 また学ぶことに関して、人だけが外部メモリーを利用して学習することが出来る、という話もされていた。今までの先人の積み重ねを、私たちは一から発見するところから始めることなく利用できる。「ただしそれに頼り切ることのないように。大切なことは考えることである。」
■感想
進化の話になって先生の話が多岐にわたり始めるのを見て、先生の話もエントロピー増大則に従うのだなと思ってみていました。何かひとつのことをやり続けるのにエネルギーが要るのは、そういうことなのかもしれないと思いました。
宗教の弊害について、昔キルケゴールの「死に至る病」を読んだとき、彼の言っていることが良く飲み込めず熟読するに至らなかったことを思い出しました。当時お世話になっていた倫理の先生とお話したときに、「キリスト教信者にとっては神が居ることが日常で普遍であり、思想もそれに基づいているからキリスト教を理解しないとあの本は理解できないだろう」と言われたことがあります。宗教は宗教、学問は学問、と単純にいえるのは私の感覚でものをいっているからであって、彼らの感覚では寧ろ私の感覚が理解できないのだろうと思いました。
進化論の最大の問題は、実際に確かめられないことだと聞いたことがあります。立証できないために憶測の域を出ないため、結局は思想の派閥によって主流が成り立ってしまうということです。しかし進化論にしても何かの理論にしても、最後に壁を作るのは人の価値観と先入観であり、また受け入れるのも人以外にできないことだと思いました。できるなら私は(無宗教でもあるので)価値観と先入観に縛られないように学問していきたいです。

■課題
①「エピジェネティックス」
 講義ではDNAの配列の変化により進化が起こる、という話があった。ワトソンとクリックによる「DNA配列によって生物が規定される」という考え方に代わり、ポストゲノム時代になってから広がり始めた考え方がこの「エピジェネティックス(後天的遺伝)」というである。これはDNA配列によらない遺伝子発現の多様性を意味し、個体差はDNA配列にだけよるものではなく、むしろその遺伝子の発現の調節の程度や有無によって生じている、とする考え方である。
 DNAはメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化など様々な修飾を受け、それ自体も変化している。またDNAを取り巻く環境(ヒストン、RNAなど)も様々な調節や修飾を受け制御されている。
 個体差、形質というのは単純にDNA配列のみで決まるものではなく、同様に進化もDNA配列の変異のみによって決まるものではない。
②濃縮の例とそれが起こる原因について
 例:血液、グリコーゲン合成、リソソーム(消化酵素の局在化)、ゴルジ体、神経細胞(Na
、Kイオンの濃度差)

 濃縮という事象はエントロピーに反しているが、生物的環境中はin vitroのような単純な
環境ではないため、逆に濃縮することの方がギブスエネルギー全体では負になるような環
境であることが考えられる。また、ATPなどのエネルギーを持つ物質と共役して反応を行
うことで、全体のギブスエネルギーを負にすることが生体内では良く見受けられる。

■参考資料
Wikipedia-エンタルピー-
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3
%83%94%E3%83%BC
エピジェネティックス
http://www.seikawakate.com/natu/natsu05/epigene.html
GENE edition5,6,7 / LEWIN著